真田、柳、幸村の三人は書店にいた。
部活帰りで完全に日も落ちて外は真っ暗だ。
幸村は用事も早々にすませ出入り口付近で二人を待っていた。
ほどなくして二人が参考書売り場から出入り口にむかって歩いてきた。
「お待たせ」
「欲しいものはあったのか」
「ああ、ちょうど欲しかった英語の参考書があったよ」
「そうか。では用事もすんだし帰るか」
三人は本屋の出口をくぐり外にでた。
12月などはいつもの冬より暖かかったが2月になってから
あの暖かさが嘘のように冷え込んでいる。
さきほどまでやんでいた風はまた強く吹きはじめた。
つい先日までは春のように暖かかったのに変な気候である。
三人で色々談笑しながら歩いているところで突然幸村は話題をきりかえた。
「なあ、真田。明日は何の日か知っているか?」
しばし考え込んでからまったくわからないといった表情で
「なんだ、何かあるのか?」と答えた。
期待半分な表情だった幸村は「ああ…やはり…」とがっかりしたような表情にかわった。
柳は「予想通りだ」といった表情である。
明日が何の日かわかっていないのは真田だけのようだ。
「信じられない!
明日が何の日か忘れるなんて!!!
お前は本当に男か!!!」
「まあ待て、精市。
何も全国の男がお前みたいにギラギラしているわけではないぞ」
「ギラギラってなんだよ!お前は違うのか?!いらないのか?!」
「別にどちらでもいいが」
真田をおいてけぼりにして二人の口論は続いていた。
真田は本当に何かわからないといったように聞いている。
「何の話かわからないのだが…」
「もー!!!俺すっごい楽しみにしてたのに覚えてないなんて!!!
くそっ、じゃあ俺からやるから3/14は覚えてろよ!!!」
「え…だから何の……」
真田が呆気にとられているうちにちょうどみなが家への分かれ道にきたので
真田が何のことか把握できないままみなはそれぞれ家に帰った。
次の日。
朝から学校は妙にざわついていた。女子も男子も浮き足だった感じである。
幸村は昨日のことをぼんやり考えながら教室に向かった。
教室で自分の席につき今日の授業の準備をしていると教科書を机にいれるとき何かがつかえて教科書が机のなかに入らない。
「おかしいな?」と思い机の中に手をつっこんでみると何かが手にあたった。
それをつかんでだしてみるとピンク地に水玉模様の紙につつまれリボンのかかったちいさなかわいらしい箱だった。
さらにちいさなカードがそえられていて「幸村くんへ」と書かれていた。
それをなんとなくかばんにしまい幸村はまた授業の準備をはじめた。
朝のそれ以外は特にかわったことも起きずに普通に一日がすぎていった。
なんとなく気のりがしない様子でとろとろと部室に行くともうすでに他の部員が集まっていた。
いつも遅刻ギリギリや遅刻のブン太や赤也もしっかりいる。
「あっおい幸村!俺今日こんなにチョコもらったんだぞい!
幸村はいくつよ?」
無表情でブン太を見る幸村。
あきらかにいつもの幸村と違う。
部活中もがっくり肩を落としてベンチに腰かけている。
もちろんこれを見逃す真田ではないが、何かを言おうとすると柳に執拗にとめられた。
この日の幸村の様子は部員を大層不気味がらせたという。
教室では物静かにみえるが部活になると二重人格かのように一変。
鬼部長にかわるからだ。
鬼といっても普段は真田が部員に激をとばすのを眺めているだけだが。
真田を殴れる唯一の人物が幸村と柳なのである。
そんな幸村から今日は覇気がまったく感じられない。
覇気どころか落ち込み気味だ。
ブン太などはそんなにチョコもらえなかったのかと勘違いし、チョコをあげようとしたがこれもやはり柳にとめられた。
どうも柳は幸村が落ち込む理由をしっているようである。
結局ベンチにすわって背中をまるめ下を向いたまま部活は終わった。
幸村がしょんぼりしたまま帰途につくことになったが
今日は柳が用事があると言い、いつも一緒に帰るメンバーから柳がぬけた。
つまり真田と幸村ふたりきりで帰途についたのである。
帰り道、真田は部活の様子をふりかえっていた。
めずらしく時間よりだいぶ前に部室にきていた赤也とブン太。
はじめは「明日、雪がふるのではないか」と思っていたが、荷物をがさがさ広げはじめるのをみてやっと気づいた。
バレンタインでいくつチョコをもらったかを競ってみたり、甘いものに目がないブン太なので
教室では食べるわけにはいけないチョコを食べるために早めに部室にきていたのだった。
いつもこんなにきちんと時間にきていればこちらは頭を痛めずにすむものを・・・
と考えつつ、ふと幸村に話をふった。
「今日はバレンタインだったのだな。
それにしても何故幸村はそんなにバレンタインが気になるのだ。
まったくわからん」
真田は本当にわからないといった様子だ。
すっかり忘れていたのだから当然だろう。
部室でブン太達がさわいでいなければ気付かなかったかもしれない。
「健全な男子ならいくつチョコがもらえるかとか
本命のこからチョコもらえるかとか気になるだろ…」
「そういうものなのか?
それで幸村はどうだったのだ」
あっさり触れてはいけない話題をふる。
こういったことにはひどく鈍感である。
押せ押せの幸村がてこずるのも仕方ない話だ。
性別という壁以前に例え幸村が女であったとしても
いくらアプローチしても鈍すぎて気付いてもらえない、そんな予感…
というより確信が幸村にはある。
しかし淡い期待は捨てきれない。
「机の中に女の子からのがはいってたけど
俺はつきあったりするつもりはないよ。
本命からはもらえなかったし」
女子から全然もらえなかったことに対してはしょんぼりはしていない。
真田からもらえないことがしょんぼりなのだ。
男同士あげるのは気持悪いかもしれないが
女子校では実際、女子同士でチョコのやりとりがあるのだから
別に男子校だって…!と思ってもなかなかうまくいかないものである。
「そうか、それは残念だったな」
(なんて…なんて鈍いやつなんだ!
日頃からこんなにアピールしているのに!)
幸村は心のなかで激しくじだんだを踏んだ。
「俺は義理チョコとやらをもらってな。
チョコもらえてないだろう、可哀想だから義理をやる
と女子からやたらもらってな。
しかし洋菓子は食べるがこんなに食いきれん。
しかし捨てるのもくれたものに悪いと思ってな。
ひとからもらったものをやるのも悪いが
幸村いらないか。
まあ…その、なんだ。
日頃世話になっている感謝ということでだ。
そもそもバレンタインにチョコとは菓子業界が作ったことで
元はセントバレン…」
全部言い終わる前に幸村は顔を輝かせて言った。
その間わずか数秒である。
「!!!
えっえっ?!
本当に?!いいの?!
もらうもらう!
すっごい嬉しい!
食べずに部屋に飾っておく。
真田からなんて珍しいしすごいうれしいよ!!!」
真田がカバンからだしたチョコをひったくるように奪う幸村
「返せとか言われても返さないよ!」
ニヤニヤしながらチョコをいろんな角度から眺めている。
ひとしきり眺め終わったら壊れ物を扱うように
そっとかばんにしまいこんだ。
「……。」
(まあ喜んでいるしいいのか)
その真田があげたチョコは透明なビニールにピンクのふわふわな干渉材がはいっていて
そこにチョコが数個つつまれている。
そして青いリボンと薄くピンク色の小さな薔薇がついたものでラッピングが封されている。
とても余った義理にはみえないラッピングだ。
それもそのはず、昨日幸村とわかれたあと柳に入れ知恵されたのだ。
「弦一郎…明日はバレンタインだぞ……。
精市はお前からのを楽しみにしているんだがわからないか?
チロルでも喜ぶだろうから何か考えておけよ」
この言葉を聞いたあとハッとしてすぐにロフトにかけこんだのであった。
実際、真田は鈍いから恋愛などはわからないにしても
幸村のことはかなり好いている。
これが恋なのかは真田にはわからない。
わからないが楽しみにしている幸村の顔が曇るのが嫌で店にかけこんだのだ。
義理をわけるといったのはもちろん照れ隠しで
幸村にあげたのは義理とは別の特別なものだ。
チョコをもらえた幸村はもちろん
喜んでいる幸村をみられて真田も幸せな気分になった。
こうして今年のバレンタインはあたたかい時間が流れてすぎていった。
07.03.11